特別寄稿 安達 精治


「何のために今の仕事をやっているのかが漠然」の人達に明日はない!
たった一つの質問が人を替え、仕事を変えることがある。
 
私が上場会社の社長時代、社員同伴で新規営業企業の訪問に出かけていたときのことだった。初めてお会いした相手の社長から質問を受け、タジタジになり、それが骨身に沁みた時の話だ。 私は自社の業務内容を一通り説明後、満を持して新規のお付き合いをお願いしたい旨を申し出た。その時だった。
 
相手の社長は、私の顔を覗き込みながら「あなたは何のために今の仕事をやっておられるのですか?」と問いかけられたのである。たった一言だが強烈な言葉だった。
 
そして「それをやるのはお金のためですか? 儲かりますか?それとも、あなたの自己満足のためにやっておられるのですか?」と淡々と語りかけられた。
 
当時の私のその会社は、古典的印刷会社から「ホテル事業・ライフスタイル提案事業」へと多角化転進脱皮中であった訳だが、この多角化路線についてのコメントは特に厳しく、よく覚えている。
 
その内容は「大変失礼ですが、各事業部門ともあなたの収支計算による儲け追求主義・業績優先型の経営で、実に事業全体としては纏まりがないですね」と云われてしまった。
 
私はついつい社員の前ということもあって、「これが私の人生を架けた仕事だ」とその場を取り繕って懸命に応え、早々に引き上げた。
 
当時から私の本当にやりたかったことは、現在の私の仕事、つまり、ホテル・リゾート経営を通じての地域活性化に繋がることである訳だが、当時は自分自身がやりたい事が未だ漠然としていて、このことに絞って行なうとのテーマが未決定状態で、その自分自身の心の迷いをずばり見抜かれてしまった。
 
いや正直にいうと、本当の自分自身の目標・目的を持っていたにもかかわらず、目標に向かっていた自分を『株価維持・収益確保』追求の結果、一旦は見失いかけ、悩んでいた私を嘲笑されたのである。

 
本当は何がしたいのか?どう生きるのか?
「あなたは何のためにそれをやっておられのか?」というたった一つの質問が、その時点の自分は「本当は何がやりたいのか? どう生きなければならないのか?」を考えさせてくれる質問であった。
 
何とも不思議な感じを持ってその会社訪問を終えたものの、それから数日間はこのことが脳裏から離れずに実にマイッタ。つまり、深い悩み・人生の行き詰まりというスランプが始まった。
 
確かに人は、私がそうであったように、人生に必ず行き詰る。では、何故人は行き詰るのであろうか?
 
現在人気放映中のNHK大河ドラマ「天地人」の直江兼続はその師である上杉謙信の言う、「自己の利を追求せずして、義を重んじよ」との教えで行き詰まりを乗り越え、人を愛し、故郷を愛し、世のため人のために尽くしたことで知られている人物だ。

 
自分のことしか考えてないからや
又、最近愛読する経営の神様と云われ現在も多くの方に親しまれる松下幸之助氏の著書によると、松下氏はあるお客様からの質問、「人は何故行き詰るかをお教え願えないか?」との問いに対し、「自分のことしか考えていないからや」と答えたという。
 
私はこの言葉がとても好きになった。確かに私自身の経験でも、自分のことだけを考えて何かのスランプを抜け出そうと焦り、抜け出そうとすればするほど限界が来る。
 
ところが、自らの利から離れての視点に立ち、従来からの観点を変え、人のため、社会のため、お客様のためになることを考える発想を真剣に行なってみると、出てくるアイデアは無限に広がり、決して行き詰るということはないのだと説いておられる。

 
日本人としてどう行動すればよいのか
世界未曾有の経済不況の今、私はありとあらゆる職種に従事されている経営者や幹部諸氏に対し、改めて「何のためにこの仕事を?」との再考時期を神が与えてくれており、21世紀の我々日本人各自が「今後日本人としてどう行動すればいいのか」を、自分自身に問うことを求められているのではないかとさえ感ずる。
 
自分のためにそれをやるのか?人のため、社会のためにそれをやるのか?
 
結果は、自分という個人の人生という短期間ではなく、寧ろ日々俗物的な自分から離れる事により、極めて長期間でも行なう価値のあることに参加させて頂いているとの自己確立意識に目覚めたときに、その思考力は雲泥の差がつき、自社社内外の関係者に役に立てる存在に、初めて参加できるのではないだろうか。
 
一方、あの時の一言で私は深く反省をした。そして、日本文化を創造したのは地方であることに着目し、地方分権時代の地方の活性化とホテル・リゾートの人材育成ということを中心に、自分がお役に立てることは無いのかと考えるようになり、ここ10年間取り組んできた。

 
事業再生と地方活性化のR-ING
最近、全国各地で行なってきたホテル・リゾート再生事業を「R-ING」という私自身の持株会社に経営統合した。R-INGの「R」は、私自身のテーマそのものであるRestructuring(事業再生)と、Revitalizing(地方活性化)の頭文字を採用し、自分の考えと完全一致させた。
 
また、最近経営統合したもう一つの理由は、改めて事業テーマをさらに深く具体的に追求すべく、「地域活性化を点から線に、そして線を面に具体化させる」として、地域全体のプロデューサー、コーディネーターをボランティア感覚で行って、充実した日々を送る事ができるようになったのは、あの日の一言だと感謝している。

 
国づくりと人づくりの原点
自分自身で行いたいことが見えると、仲間が集まってくる。それは、上司が命令するからとか、リーダーがこうやるというのではない。みんなで話し合って決めていこうということ、そこにあるのは唯一、共有価値観。
 
価値観をお互いに共有するということ以外の関係は無いことが、地方活性化のキーであるし、地方の特色化である。
このことこそが、いま日本という国づくり、人づくりの原点である気がしてならない。
 
このように地域づくりNPOや特定目的の仲間とか、自分の仕事を好きでやっていることも含め、自発的参加できるような雰囲気づくりが、私は大事だと思うし、会社の経営にも通ずるし、経営トップに求められている。